「ギョウジャニンニク」何という不思議な植物、不思議な山菜であろう。私の住んでいる大仙市の、通称西山周辺に生えているこの植物は、子供の時から山奥で育ちほとんどの山菜を知っているつもりの私にとって唯一知らなかった、食べたことのない山菜である。これがそれほど大した山とも言えない西山に生育していることが理解できなかった。そしてあの味覚、ニンニクに似てニンニクではない、ニラにも似ているが違う。葉をとって揉んで臭いを嗅ぐとまさしくニンニク臭がする。
ギョウジャニンニクは「秋田県版レッドデータブック植物編2002」によると「絶滅危惧種U類(VU)」にランクされている。これは「絶滅の危険が増大している種で、現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧種T類」のランクに移行することが確実と考えられるもの」と定義されている。
ギョウジャニンニクの分布は、本州の近畿以北、北海道、千島、サハリンなどとされており、秋田県内では森吉山系、八幡平山系、男鹿半島等の海岸と大仙市の西山地帯などで確認されている。北海道では代表的な山菜の一つで湿地や林床などに多く、本州では深山の沢沿いとその斜面に多い。秋田県における生育はかなり限られており1000m2前後の群生地もあるが、一般には小規模な群落状に生育していることが多い。発芽してから採取適年まで5〜6年かかるとされ、自然条件における増殖力が弱い。近年ではスーパーマーケットなどに早春の山菜として売られているが、大量に採取することは慎むべきである。現に男鹿半島や大仙市の西山は減少が著しい。
さて、寒冷地を好み、その多くが深山にあるとされるギョウジャニンニクが、なぜ標高300m前後の大仙市西山地帯に生息しているのか大いに興味を覚え、ルーツを探るべく流域の新たな生息地を見つけたいと考え、深山をあっちこっちと歩いてみることにした。その結果、標高600〜800m程度の沢の小規模な河岸段丘に数ヵ所の生育場所を見つけることができた。それは、今年の4月中旬に全く初めての場所で湿地を流れる小渓の岸辺に生育するナラの大木の根元に群生していたものであるが、そこだけ雪が消えた木の根元の緑は雪深い厳しい環境の中でまぶしいほどの凛とした姿であった。
ギョウジャニンニクは「秋田県立自然公園指定植物」としての保護対策が講じられているが、これに該当する生息地は限られており、採取は野放し状態と言ってよい状況である。私たちは、これからも地道なルーツ探しと節度ある採取への取組を実践していきたいと考えています。 |